水害防備林

 日本人が世界的に見て、すごい民族なのは、災害とは無関係というわけにはいかないと思っています。311の時に、落ち着いているとか、秩序があると世界が驚いたのは、災害時にバタバタしては、何も出来ないことを長い間の自然との闘いの中で理解した結果だと思っています。助け合うのも、いつ自分が助けられる立場になるかもしれないということを分かっているんだと思います。世界的に見て災害の多い国ですから。
 年がら年中、自然災害と向かい合ってきたからだと思います。そして、少し前までは減災という考えで郷土(国土)を守り、被害を最小限にしてきたんです。水害防備林自体は、わずか1000haです。

 ローテク扱いで情報が少ないのがネックです。徐々に、情報を整えていきたいと思っています。
 もし、写真の提供をしていただければ大変うれしいです。

 勉強不足で、河川のことはよく分かりません。でも水害防備林、水防林とも防水林とも言いますが、林という視点、林の機能という視点で、深く掘り下げてみたいと思います。国土交通省では、砂防林と呼んでいるようです。こちらは、砂防法に基づいて行う事業です。なお、治山と砂防の違いは、森林法に基づき、山に木を植え、生活の基盤を整えるのが、治山で、洪水などで命や財産を砂防法に基づいて行うのが砂防です。


 毎年のように日本各地で洪水や土石流が発生し、多くの人が亡くなっています。自然災害に対して、人の手で出来ることは、本当は無いのかもしれません。完璧に守るというのは、実は無理なことなのかもしれません。
 だから、治山ダムやコンクリートで固められた護岸工事は、不可欠です。誰かが公共事業の無駄と言うことを言っていても、移住させることが出来なければ、続けざるを得ないと思っています。そして、やるなら初志貫徹で行ってほしいです。感情的な声に配慮するのでは無く、今ある技術で出来ることで対応すべきなのです。そして、その技術を絶やさないことが大切です。無駄と思われることをいくつも経験して、効率的な対処方法が生まれてきます。
 さて、水害防備林は、ローテクですが、護岸工事などを補佐できると思っています。補佐することで、より生活しやすい環境を作れると思います。そして、この技術、思想は途上国でも活用できると思っています。
 自然災害による悲劇は出来るだけ少ない方が良いですから。

構成
 
日本の水害防備林と河川
 
水害防備林の機能
 水害防備林に関する書籍
 住んではいけない地名
 リンク集
 災害の防備録(記録誌)


日本の水害防備林と河川




日本3大竹林の一つだった錦川の水害防備林 


土砂や流木を防いでくれます。


 
福島県 荒川(福島市)
山形県 最上川(東田川郡庄内町清川)
上河原水害防備兼防風林
山形県 荒川(小国町南部)
玉川砂防林
栃木県 彦間川(佐野市:旧田沼町:旧安蘇郡新合村)
彦間川水防竹林
  栃木県 巴波川
茨城県 久慈川 
大宮水防竹林 世喜水防竹林
東京都 墨田川
東京都 荒川江戸川 中川 綾瀬川 水元公園
神奈川県 酒匂川 静岡県 鮎沢川
新潟県 阿賀野川 オッチラカシ水防林
山梨県 釜無川
  長野県 釜無川 諏訪郡富士見町落合の川除林
長野県 信濃川水系高瀬川 (大町市鹿島)
鹿島川砂防林
静岡県 狩野川 
愛知県 矢作川(豊田市:旧挙母市、高橋村)
岐阜県 揖斐川
  富山県 常願寺川 殿様林
滋賀県 愛知川
滋賀県 安曇川
京都府 桂川
京都府 木津川
兵庫県 有馬川
  兵庫県 円山川(豊岡市) 上郷の水害防備林
和歌山県 紀ノ川
徳島県 吉野川
愛媛県 肱川
島根県 斐伊川
島根県 江川
広島県 太田川(広島市)
山口県 錦川(岩国市)
山口県 佐波川
福岡県 矢部川
大分県 大野川(大分市)
佐賀県 筑摩川


● 尋ねた所
▲ 情報だけ










■ 歴史

   

水害防備林の機能
堤防は、壊れてはいけないのですが、絶対大丈夫というわけでもありません。人の技術力は自然には勝てないからです。
だからといって、何もしないというのが良いわけはありません。私たちが安心して生活するためには、自然の脅威に立ち向かい、技術開発するしか無いのです。しかし、それでもダメな場合のために、次の手を考えておく必要があります。堤防の横に木を植える、樹林帯を造るというのは土地の無駄遣いに見えるでしょう。でも、無駄を忘れ、効率一辺倒になった社会は、何かがおこるとあっけなく崩壊します。洪水対策としてのスーパー堤防(高規格堤防)も洗掘を避けるため、裏法面(陸地側)を3%という緩やかな傾斜にした堤防です。被害を如何に抑えるかが鍵なんです。



樹林帯がないと、洗掘で堤防の崩壊が大きくなります。
流速が早いため、洗掘の一種である落掘(おちぼれ)が大きくなり、堤防の基盤をも削ります。


堤防復旧にも時間がかかります。


樹林帯があることで、洗掘を防ぎます。堤防の横に樹林帯があるだけでも違ってきます。

樹林帯は、流木や岩を防いでくれます。
樹林帯がなければ、決壊後、さらに堤防は壊れ、大量の土砂や流木が人家や田んぼをおそうことになります。


樹林帯があることで、流れ込む水量が抑制されます。この結果、落掘(おちぼれ)を抑制し、復旧しやすくします。

一般に、水害防備林は、河川の出水時に水流の勢力を弱め、水害防備林内への土砂の堆積を促すことで、河川沿い及び地域の水害緩和として働いていた森林となっています。






木流し(竹流し)
堤防に植えられている樹木は、何も堤防の強化だけに使われているのではありません。万が一、堤防に危機が迫れば、切り倒して、川に投げ込みます。もちろん、流されてはいけませんので、杭(留杭)から土嚢で固定させ、伐採木にも重りを付けて流します。


場所によっては、木では無く竹の場合もあります。その場所にある資材で対応します。



一つの水制工法「聖牛(Seigyu:木製トリポット)」
なぜ、聖牛なのか。それは、夏王朝の創始者の禹が鉄牛を黄河に沈め、水害を鎮めた故事に由来しています。洪水を制御する牛だから、制止する牛=>制牛=>聖牛かと思います。

本当は、組み上げられた木枠の上の部分が、洪水時に角のように見えたからかもしれません。

古代中国では、鉄牛を沈める=重たい物を沈めて、水流を弱めるという意味と、わざわざ高価な鉄を民のために使うという姿勢が後世まで伝えられたのだと思います。さて、それに比べると、予算も安上がりになりますが、洪水対策として、戦国時代、武田信玄が導入したのが始まりといわれています。原型は、もっと古くからあったと思いますが、改良を重ねながら、ここに至ったと思います。その後、江戸中期以降に全国の急流河川で多く用いられるようになりました。

これは、一つのの水制工法です。武田信玄絡みで、富士川でよく使われてきた経緯があります。分類的には、牛類となるそうです。この他に、杭工、柵工、枠類など、多種多様な地方の知恵があります。

基本は、三角錐となります。この資材は、身近なものでなくてはなりません。すぐに作って洪水に対応しないといけないからです。水害防備林は、場所によっては、用材備蓄林としての機能も持っていたのです。特に、アカマツやクロマツ、スギなどの高木です。堤防蕎麦に植えられたのは、すぐに伐ることが出来る、備えだったのです。

写真は、明治32年(1899年)北アルプスに源を発する高瀬川の氾濫時に、村へ侵入を食い止めるのに用いられた聖牛。



 判っていることを纏めると、1500年代に登場したといわれる聖牛は、洪水多発地の川で、水流を弱めるために作製された工作物である。当時は、コンクリートや鉄筋等がなかった時代であり、身近な資源ということで、木材が利用されていた。
 この、聖牛の誕生した背景には、土地問題で話のあった大名が地域を発展させる鍵として洪水対策に力を注いだ時期である。洪水が発生すれば、食糧不足になり、飢饉の発生、暴動など社会不安=国力の低下につながる。国力が低下すれば、他の大名と戦争で負ける。このため、開墾と同時に治水にも力を注ぎ、住民の支持を集めた。
 歴史的には、四角い木枠に石を積める方法から始まり、試行錯誤の末、聖牛が誕生したと言われている。洪水時の激しい水の流れを弱める制水工には、水を通さない構造物と、水を通す構造物に分かれる。水を通す構造物の代表が聖牛である。なお、水を通さない構造物の場合には、土台の洗掘の恐れがあるため、基盤工事が重要となり、コストが掛かる。

 水流の強さによって、聖牛の大きさや蛇籠の数を調整する。

 
真正面から来る水の勢いを分散させることで、背後にある堤防を守る。特に上流から流れてくる大小の石・岩・立木を食い止める役割は急峻な地域では、重要な役目である。結果、堤防に直接当たらないため、堤防の破壊を防ぐ役割も果たす。
また、聖牛の配置は、横一列に配置する箇所や、3基1組(前2基,後ろ1基)等、増水時の水の流れに対応して配置している。加えて、礫の多い不安定な場所でも安定する事が判っている。
酒匂川での配置は図の通りであるが、今は、設置していない。必要に応じて設置することは状況によってはあり得える。
現在の科学では、そのメカニズムの解析にまで至っていないが、聖牛を設置することで、周辺の河床洗掘防止機能が高まると言われている。まだまだ判らないことがあるが、水害を守るために、洪水の多い地域では、今なお利用されている。今日では、腐らないということで、コンクリート製の聖牛を配置している箇所もある。
なお、水防訓練では、木製の聖牛の作製を毎年行っている地域もある。理由は、簡易的でも工作物を用意した方が、被害が軽減できると判断しているからである。特に、堤防の決壊箇所は、一度破堤した箇所は、より強化されるため、別の箇所で決壊する。このため、前回まで問題なかった箇所が、問題となるため、迅速に作り、設置する必要が生まれる。
酒匂川に川音川の流れがぶつかる合流地点では、増水時に越水・破堤の危険度が上がる。このため、堤防の強化(石積み)の他、聖牛を配置するなど、水流を弱める対策を行ってきた。
地域においては、この様な洪水対策の資材を確保するため、防災資材として、共有地に植林し、必要に応じ伐採してきた歴史がある。日本における森作りには、木造建築のための利用、薪炭の利用の他、このように災害時の使用目的の為の森作りもある。





水除林

普段は何気ない川ですが、増水時に木があると無いとでは違う結果になります。


木がなければ、激しい水流が直接、堤防にあたり、場合によっては、破堤します。
ごろごろと転がってきた岩や、流木も直接堤防に当たれば、大きなダメージを受けます。


しかし、樹林帯があれば、直接堤防に水流はぶつかりません。水の勢いを削いでくれます。
結果、堤防が守られます。破堤の可能性が、何も無い状態より低くなるんです。


参考写真:よみがえる国土 ―写真で見る治山事業100年の歩み―

これは、311の津波から集落を守ってくれた海岸林です。このようなイメージですが、水害防備林も洪水時に漂流物を捕捉してくれます。仮に、堤防を乗り越えて越水しても、堤防の外側が冠水しても、流木や岩を食い止めてくれるので、車や家が流されたり壊される確率が低くなります。この様な緑の壁がなければ、堤防の決壊に続き、激しい水流が堤防の外側を襲い、車も家も流されます。





霞堤と通常堤防の違い

霞堤は、武田信玄が考案したとも言われる治水法です。通常だと、堤防を築いて洪水から田畑や、住居地を守るのですが、越水するような場所では、越水後の水は田畑や住居で滞水します。これは、農作物を腐らせるほか、家も腐りますし、病気も広がります。だから、早く滞水を解決する必要があります。
また、堤防が壊れれば、越水以上に水が入ってきます。破堤した箇所を強化すれば、それ以外の場所が破堤して、同じ事の繰り返しになります。



一方、霞堤は、不連続の堤防ですので、増水時には、水を逃がす役目を果たします。一度勢いを弱めて、上(遊水池)に水を流すので、制水にもなります。水嵩が下がれば、上に行った水も重力には逆らえませんので、下流に流れます。
もちろん、一時的に滞水することが判っているため、住居や畑を作りません。レンコンなんかは栽培できると思いますが。
また、霞堤の上流域で堤防が破堤しても、霞堤があれば、再び川に合流できます。





 なお、洪水時に大量の水生生物が激流によって下方へ押し流される。時には、海まで流されてしまい、海水によって死滅する。しかし、霞堤の存在によって、霞堤内部の水溜にとどまることの出来る水生生物もあり、生物の回避場所として注目を浴びつつある。

水害防備林は、防災0を目指す森林では無く、あくまでも減災目的の森林です。治水対策として、洪水調整ダムの設置や堤防の強化は必須です。自然の力を活用した治水はあっても、環境に配慮した治水は、頭を強く打った人の妄想です。ましてや洪水と共存なんて、高台に住んでいる人の戯言です。昔の人は、洪水は当たり前。では、どうやって洪水後を生かすかを考えていました。そんな余裕は、今の日本社会にはありません。

洪水対策で川幅を広げようとすれば、地域が壊れると叫ぶ人たちがいます。貯水池を造ろう地面を掘れば、自然破壊と叫びます。住民の声を聞けと言います。そんな人たちは洪水が起きて、財産が奪われても良いと思っています。もしかしたら、普段の行いが良ければ災害に遭うわけは無いと確信しているんでしょう。洪水は起きないと信じれば洪水が起きないと思っているようです。

水害防備林は、治水施設を補助する役目、補完する立場です。自然界に対して、絶対大丈夫はありません。だからこそ、ダムや堤防だけでなく、もう少し広い視野で災害による被害を少なく出来ればと思っています。

江戸時代の知恵をもう一度見直せる機会であればと思っています。


水害防備林に関する書籍
発売中      
入手困難な本
水害防備林  上田弘一郎  産業図書  昭和30年(1955年)
保安林研究彙報 《防災林編》 松下歸智朗 桐林学園出版会 昭和51年(1976年)
リンク

■ 河川伝統技術データベース
    河川伝統技術データベース:分類別リスト【水防】
■ 西江小プラザ (海津市立西江小学校)
   水防
■ 古賀河川図書館
    http://koga.mymy.jp/
■ 日本の川と災害
    http://www.kasen.net
■ 日本河川協会
    http://www.japanriver.or.jp/
■ 河川財団
    http://www.kasen.or.jp/

災害の防備録(記録誌)
 色々な報告書が、公的機関から公開されています。災害の原因(素因・誘因)、被害額、対応、そして対策へと、次に引き継ぐための重要な情報源です。悲しいことに沢山の災害が毎年日本各地で発生します。しかし、この災害大国日本とずっと付き合う必要があります。そのためには、誰もが理解できる情報が不可欠です。
 都道府県毎・市町村毎・官庁毎に報告書を整理してみました。
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